「やりたくない!いやだ!やりたくないぃいいい!!!!」
幼少期の私に、強烈な恐怖を植え付けたゲーム、それが、あの名作だ。
私には6歳離れた兄がいて、その兄がゲーム好きだったため、物心ついた頃から家にゲーム機、ゲームソフトがあった。よく一緒に兄とはゲームをしたし、兄のプレイを横で見ているのも好きだった。
両親はゲームをほとんどしない人たちだったが、ゲームは一日1時間!というルールもなく、家族で夜ご飯を食べ、その後一緒に過ごす時間以外はどれだけプレイしていても止められることはなかった。
ゲームは子供の頃、生活の一部だった。そして、ゲームはとても楽しいものだった。
そんなゲームに裏切られる日が来た。
私が小学生になるかならないかくらいの、あるクリスマス。
我が家に「NINTENDO64」と「ゼルダの伝説 時のオカリナ」がやってきた。サンタさんからではなく、親から私たち兄弟にくれたプレゼントだった。
誕生日やクリスマスなどといったイベント事の夕飯時は、普段食事の時には禁止されているジュースを飲んでも良いなどといった、「特別ルール」があった。
その日も、64をプレイしながら夕飯を食べても良いという特別ルールが許された。
早速兄がゴールドカラーの64をテレビに繋ぎ、ゼルダのカセットをセットし、プレイを始めた。
「コキリの森」には妖精が飛び交い、陽射しが降り注ぎ、軽快な音楽の中、兄が操作する主人公の「リンク」が走って転がったりジャンプしたりするのを、コーンスープを飲みながら夢中で見ていた。
私はプレイをしなくても全然楽しめていたのだが、兄が気を遣ってコントローラーを渡してくれた。新品のゴールドのコントローラー。
慣れないコントローラーを両手で掴み、左手の親指でスティックを倒す。すると、リンクが走り出す。クリスマスの高揚感と初めてのゲーム機。何とも言えない緊張を感じながら、最初のダンジョン「デクの樹サマの中」に入った。
その瞬間。コントローラーを放った。
なぜなら
恐ろしすぎたから…
知らない方は、動画サイトなどで検索して見てほしい。こんなんチュートリアルで最初にやらせるダンジョンじゃない。異様な雰囲気。バックに聞こえる不気味な音。「音楽」なんかじゃない。音。それまでの明るい森との落差。プレイヤーをホラーゲームに突き落とす任天堂。これがっ全年齢対象…!?おかしい、おかしいよ、任天堂…。
突然プレイをやめた私に対して、兄も母も不思議に思ってまたプレイを続行させようと促すが、私は泣き叫んだ。
「やりたくない!いやだ!やりたくないぃいいい!!!!こわいぃいいい」
笑う母と兄。父は仕事。
とにかく幼少期の私は「怖いもの」に耐性がなく、兄から火星人が地球を侵略しに来るという与太話を聞いただけで、火星人がもしうちに来たらどうしようと戦々恐々としていたし、家の本棚にあった楳図かずおの「おろち」第1巻も、表紙カバーがかかっていなくて怖かった。
そこにデクの樹サマショックである。
結局私は、20年以上経つ現在に至るまで、時のオカリナを自分でクリアできていない。
兄のプレイで見逃したところは、大人になってからゲーム実況をみて補完したのだが、未だにクリアできる気がしない。あのデクの樹サマの中以上に怖いダンジョンがいくつもあるのだ。おかしいよ任天堂。
しかし、ゼルダを嫌いになることは無かった。その後「ムジュラの仮面」も買ってもらったし、「風のタクト」も自分で買ってプレイした。リンクモノマネもたまにさせてもらう。そして、ゼルダの新しいニュースを知れば、ワクワクする。むしろ、好きなのだ。
今となってはあの衝撃も笑い話。あれがあったおかげで少し強くなれたんだ。
任天堂さん、ありがとう―――。
~♡♡♡ハッピーエンド♡♡♡~
コメント